定期検査の1回目終了

 2015年12月25日に大腸がんと肝転移がみつかり、2016年の1月21日に手術してから9年目。いつもは楽観的なのだが、今年の検査前は結構不安になっていた。年もとったし、同級生や仲間が先立っていくし、世代を共にしてきた芸能人なども亡くなっていくし。

 検査1週間前から完全に禁酒。大学病院から移った信頼できる後輩の外科主治医がいる病院で検査を受けた。感謝の意味で超音波してくれた技師さんの名前、採血してくれた看護師さんの名前、CTの造影剤を入れてくれる看護師さんの名前を覚えておこうと思ったり・・そして田中彰医師の診察開始である。彼は医学部時代の教え子だが、一流国立大を出てから医学部に入っているので、年来は10歳も変わらない。大学病院時代から私の主治医である。人格も腕も確かであり、彼と話すだけで安心する。がん発見された当時は「この先生なら、もう死んでもいいや」とも思ったりしたものだ。

 結果は思った以上に良かった。

 抗がん剤の影響で脂肪肝から繊維化している部分は改善しており、腫瘍マーカーも前立腺含め全て正常であった。腹筋やっているので体脂肪が減っていて筋肉もあった。γGTPは二桁に落ちた。あとは2月に大腸内視鏡、これはほぼ毎年やっている。肝臓転移がなければと楽観しているが、とにかく最初はクリアした。

 患者さんの多くが心配してくれるし、彼らの言葉に勇気づけられる。

 「私より先に死なないでくださいね」と30歳も下の患者さんが言ってくれたり、「100歳までやってください」「先生のことを思って死にたいから、私より早く死なないで」と言ってくれたりする。当院にもがん患者さんが何人か来てくれているので、彼らが経験する検査前の不安はよくわかる。がんと一緒に何年も頑張っている方もいて、同志のような感じだ。

 個人開業してから大勢の患者さんに会うようになり、診療スタンスが変わった。それぞれの患者さんの人生に対して思いを馳せるようになった。対人不安を克服して看護学校いってる子には看護師になるまでは絶対に支援しようと思う。配偶者に先立たれた80代の方には、長生きしてもらいたいと思う。人生が見えない人には、人生探しに付き合おうと思う。

 宇多田ヒカルのファンになったのはがん闘病生活時によく聞いていたからだ。宇多田は、母の病状が荒れていた時に人間宣言で休暇にはいるが、母である藤圭子は2013年に自死した。その後、復活したのが2016年である。彼女は亡くなった人へ手紙を書くこと(精神療法的アプローチの一つ)を知り、彼女も亡き母に手紙を書いたという。その時の心境などもこの曲には現れているとのことだ。

藤村邦と渡辺俊之のブログ

精神科医をやりつつ小説や新聞のコラムを書く藤村邦(渡辺俊之)のブログです。