小説と音楽

 患者さんの中にはクリエイターの方が何人もいる。この前、「先生は小説書いてますけど、音楽聞きながら書きますか?」と言われた。

 最近は、書く時間がないが、また少し書きたくなってきた。

 過去の書いた作品などパラパラめくり構想を考え始めている。

 先日、精神誌特集記事に身体疾患患者の精神療法とう原稿を書いたが、私がある病院で出会った末期がん患者が主人公である。その患者について、小説ではない本当の「アカデミックな事例」として書いた。

 やがて亡くなってしまう患者は 毎回、彼女の病室から逃げるように出ていこうとする私に「今日も早いね、いつも早くいっちゃうんだね」と言った。話せる時間は充分あったのに、私は逃げたかった。死別の悲しみから逃げたかったのだ。当時は再生不良生貧血で母の死期も近づいていて、私にとって「死別」は個人的にも仕事的に辛い体験だったのだ。しかし、彼女の言葉で、私は最後まできちんと話しを聴く覚悟ができたのである。彼女の生きてきた世界、思い出は今でも心に残っている。

 私は、この経験をもとにして、群馬県文学賞に選ばれた小説「Afterglow-最後の輝き」を書いたが、北関東に生きた彼女のイメージの曲としてJim ChappellのLiving the Northen Summerを探して、いつも、それをバックで聴きながら書いていた。音楽は情動を喚起するので、筆が進むこともある。喚起されすぎて止まることもある。

この曲を聴くと、あの頃のことが蘇る。

  

藤村邦と渡辺俊之のブログ

精神科医をやりつつ小説や新聞のコラムを書く藤村邦(渡辺俊之)のブログです。