高齢者と孤独

 私は介護家族の研究で博士号をとり、「ケアの心理学」という新書が売れて(今でもアマゾンで古本50円で買えます)、2005年は金スマ、NHKで大女優と対談に出るなど、介護だのケアへマスコミの関心が向いた時代だった。中学生からファンだった風吹ジュンさんと一緒に出演したNHKを最後に、まったくお呼びがかからなくなった(笑)。介護は当たり前になったからだ。たまには新聞やら雑誌でコメントは求められる。高齢者が専門だと認知されているからだろう。中日新聞・東京新聞へのコラム連載は4年以上も続いている。

 私のところには高齢方もいらっしゃる。スナックママをしていた方との話しは私がスナックにいるような気持ちになる。日本の高度成長を支えてくれた方の話しを聞くと息子のような気持ちになってくる。昨日、自分の文献整理していたら高齢者と孤独について、ずいぶん前に書いた論文が出てきた。その論文の冒頭……

 ある講演会でグリーフケアの話をした時、一番前に座っている一人の若い看護師が少し遠慮がちに手をあげて質問してきました。「私は老夫婦の介護に関わってきました。一ヶ月前に利用者さんは亡くなりました。でも、一人残されたご主人のことが気がかりで、時々、家を訪ねています。それが良いことのなのかどうかわからなくて……、上司からも関わりすぎだと言われています、自分の仕事ではないとわかっています」私は少し考え「あなたは、それが苦痛なのですか」と質問しました。彼女は「行かないと、もっと辛いと思います……」と言い、涙ぐみました。「それならば行ってあげてください、死別で残された老人は孤独です。おじいさんの悲しみが収まるまで、無理しない程度に顔をだしてあげてください」と伝えました。

 彼女の上司からすれば無責任な助言だと思われたかもしれません。しかし、孤独死、孤立死が増え、無縁社会と言われている今日、こんなパターナリズム(温情主義)にのった関わりがあっても良いではないかと思ったのです。  

 ま、私も「あと何年仕事がやれるのか、生きられるのか」という60代だ。しかし、人生で開業している今が一番充実している。「初診はとらなくてもいんじゃないですか」と言われるけれど、私にしてみれば新しい患者さんとの出会いは「人と人」としての出会いだし、患者さんは、私の心の中で家族である(内的対象という)。 


 

 

藤村邦と渡辺俊之のブログ

精神科医をやりつつ小説や新聞のコラムを書く藤村邦(渡辺俊之)のブログです。