心地よい場所

 ストレス社会、私達は常に時間と仕事に追われ、上司や時には家族からあれこれプレッシャーがかかっている。精神科医は病理性だけに注目するのではなく、患者さんの生きている世界に注目しなければ意味がない。力動精神医学は患者の環境と個人特性の相互作用に着目するから、私は結構、「この人、どこでリラックスできるのかな」と空想したり、質問したりする。

一人でいる時が一番良いという人もいれば、誰か一緒でいたい人もいる・・心地良い場所は人によって様々である。

 ふと、思い出したことがある。祖母が生きていた頃、田舎に帰り、祖母の座る炬燵の横にいるだけで、私はとても心が安らいだ。後で内省したのだが、私は幼い頃に祖母に添い寝をしてもらっていたのだ。

 そんな感情記憶が喚起させられたのだろう、祖母が亡くなる前まで、祖母の横にいると、なんとも「癒やされる」体験が持てたし、祖母の死は大きな喪失となった。

 私の患者さんにも「先生に会うだけで心が落ち着く」と言ってくれる人もいる。精神分析的に解釈すれば、私ではなく、私に「心地良さを与えてくれた誰か」を投影してくれているのだろうと思うのだ。

 心地良い場所は、どこでも良い。それは行きつけのバーや立ち飲みでもいいし・・車の中や、コンビニの駐車場でもよい。

 どこでも「良い人」になっている過剰適応の人は、本当の自分を経験できる場が必要だ。かつて大学教員やって過剰適応していた自分が聞いていたSuzanne Cianiをまた聞いている。

 

藤村邦と渡辺俊之のブログ

精神科医をやりつつ小説や新聞のコラムを書く藤村邦(渡辺俊之)のブログです。