太宰治

 好きな作家だれですかと言われた時、答えるのは伊達一行、山川謙一、そして太宰治である。先の二人は大学時代、太宰は高校時代と30代で読んだ。太宰は「愛されるのが上手な作家」だと言われている。

 愛する、愛されるという相互作用には「投影同一化」や「取り入れ同一化」という防衛機制が関係している。太宰の作品は読者個々人の体験に投影され、そして登場人物の気持ちが自分のことのように体験させられる。境界例の日本の代表だと私は思っている。

 境界例・境界性パーソナリティ障害なんてのは、太宰の死後20年からして明確化された診断名である。しかし、診断基準には、慢性の空虚、見捨てられ感情、オールグッドとオールバッド、自傷行為、依存など、外からみた症状や生活状況しか書かれていない。

 外からみれば太宰も情けない男だし、面倒くさいし、今で言えばメンヘラであろう。しかし、その内面は太宰の作品に上手に書かれている。

 私はそこに共振したのだ。また私のように共振する人が多いから今でも愛されているのである。

 私の文学の師である芥川賞作家の宮原昭夫先生は太宰の孫弟子である。私は宮原先生に「私を太宰のひ孫弟子ということと言っていいですか」と酔って言うと「そりゃ、だめだ」と言われた。

 その時、宮原先生の愛弟子である村田沙耶香さんが孫弟子なのだと思った。村田さんはコンビ人人間で芥川賞をとったし。また、作品には常識をぶち壊す破壊性が隠れていると私は思う。

藤村邦と渡辺俊之のブログ

精神科医をやりつつ小説や新聞のコラムを書く藤村邦(渡辺俊之)のブログです。