岐阜屋変貌

 日曜日、都内で午前中仕事だったので、帰りに思い出横丁の岐阜屋に向かった。傘をさしていたので、駅側ではなく甲州街道側から入ると「あれ?店がない」と一瞬、激しい喪失感が襲ったが、看板は掛かっている。

 近くにいくと岐阜屋の外に「扉」がついていた。

 30年以上、変わっていなかった店の外観がすっかり変わってしまった。

 伸ちゃんがいた時代の客は殆どいなくなり、知っている人も減ったが、従業員の何人かはまだ顔見知りだ。

 カウンターに座って、固焼きそばに餃子にチューハイといつものパターンで頼んだが、店構えのせいなのか、いつものような気分にはなれなかった。

 帰り際「ドアついたんだね」と言うと「保健所の命令でドアがないと営業できなくなった」という答えが返ってきた。横町を歩くと、闇市風のドアのなかった店は閉まっている。扉だらけの横町では、魅力が半減する。

 新宿駅前には高層ビルが次々と建つらしい。再開発の波で生きのこってきた思い出横町もいつかはなくなるのだろう。インバウンドでくる外国客に期待したところ貿易赤字は海瀬しないのだろうし。

 日本の少子高齢化は進み、円安は進行し、貿易赤字は続く。新宿に高層ビルを建て、ホテルで人を集めるといっても働く人がいないという。デパートやモノや建物をつくる時代なのだろうか。

 いつもあった世界が亡くなるというのは淋しいかぎりだ。

 

藤村邦と渡辺俊之のブログ

精神科医をやりつつ小説や新聞のコラムを書く藤村邦(渡辺俊之)のブログです。